抗菌薬(抗生物質)とは、病気を引き起こす細菌を壊したり(殺菌)、増殖を抑えたり(静菌)する薬のことを指します。そう聞くと、「菌をやっつけたり、増えるのを抑えてくれるんなら、発熱した時に使うといいのでは?」と思われそうですが…。
以前、”風邪について”のお話をした時にも述べましたが、一般的に使われている 「菌」という言葉は、「細菌」という意味で使われているというよりは、「病原体」 としての意味が強いような印象を受けます。なので、病原体が細菌による発熱などの体調不良の場合、抗菌薬(抗生物質)の投与は効果がありますが、ウィルスによる発熱などの体調不良には効果がありません。
さて、その抗菌薬(抗生物質)について、もう少し掘り下げていこうと思います。
目次
1)作用の違い
小児科で使うことがある抗菌薬(抗生物質)を例に分類すると大きく二種類にわけられます。
- 殺菌性
細菌を構成する細胞壁(人間の細胞には細胞壁がない)を破壊することで殺菌する。
主な抗菌薬(抗生物質):
ペニシリン系(アモキシシリンetc)、セフェム系(セフジトレンピボキシル etc)、カルバペネム系(オラペネムetc)、ホスホマイシン系、キノロン系(トスフロキサシントシルetc)…
- 静菌性
細菌がタンパク質を合成できなくすることで、増殖を抑制し、細菌が少しずつ減っていく。
主な抗菌薬(抗生物質):
マクロライド系(クラリスetc)、テトラサイクリン系(ミノマイシンetc)…
こう言う話を聞くと、「殺菌性の方が強いんじゃない?」と思われるかもしれませんが、殺菌性はあくまで「細菌が持つ細胞壁を破壊している」だけに過ぎません。
つまり、細胞壁を持たない細菌には効かない(壊せる細胞壁がないので、殺菌できない)と言うことになります。
(ちなみに、人間の細胞も細胞壁がありませんので、抗菌薬(抗生物質)に攻撃されることはありません。)
そのため、抗菌薬(抗生物質)を処方する時は、「ターゲットとする細菌を想定」して処方することになります。

2)抗菌薬(抗生物質)の選び方
診察でたまに耳にするのが「抗生剤を強いものに換えてもらった」というようなお話。
上に述べたように、抗菌薬(抗生物質)の中にも、大きな違いとして、作用の違いがあります。
その違いが、強い・弱いという表現の代わりになる部分もあるかと思います。他にも、抗菌薬(抗生物質)が得意とする(殺菌・静菌の対象とする)細菌の種類も、強い・弱いという表現に絡んでくるかもしれません。
以下に、例を示します。
| α菌 | β菌 | γ菌 | δ菌 | |
|---|---|---|---|---|
| A薬(殺菌性) | ◎ | ◎ | ○ | × |
| B薬(殺菌性) | ◎ | ○ | △ | × |
| C薬(静菌性) | ○ | ○ | × | ◎ |

この場合、シンプルに考ええれば、A薬はα・β・γに全て◎か○であるため、一番 「強い」という表現がピッタリするかもしれません。
ただ見方を変えるとどうでしょう?
δに対しては、A薬は効果がありません。同様にB薬も効果がありません。C薬のみ◎なので、δのような細菌に対しては、C薬が一番「強い」ということになります。
つまり、強い・弱いの表現は、あくまで絶対的な尺度ではなく、相手(細菌)や、自分の状態によって変化する相対的な尺度です。
そのため、抗菌薬(抗生物質)を使う場合には、下記を考慮して使用することが重要です。
- 対戦相手(狙う細菌)が何か?
- その時の患者の状態は?
対戦相手がδが予想される場合に、A薬を投与しても効果はなく、C薬が最適になります。
対戦相手がαが予想される場合だと、AやBが◎なので、それらのどちらかを選ぶ方が最適になります。
じゃあ、その時の患者の状態によるとはどういうケースか… 例えば、対戦相手としてαあたりが想定されるものの、患者の状態が悪く、早期に状態を改善する必要がある場合、確かにAでもBでもいいのでしょうが、αだけじゃない可能性を考慮して、幅広く対応できるAを選択しておき、状態が改善し、対戦相手が明確になったのを確認して、B薬へ変更する作戦を取ります。
医師はこういうことを考えながら、抗菌薬(抗生物質)を処方して治療プランを練っています。
3)予防投与
たまに「以前、熱が続いてから抗生剤飲んだらすぐ良くなったので、今回は早めに処方して欲しい」や、「前回発熱してすぐ肺炎になって抗生剤を使って良くなったことがあるので、今回は早めに抗生剤を使って肺炎にならないように処方して欲しい」という声を耳にすることがあります。
「風邪をひいたら、予め、抗生剤を投与しておけば、肺炎にならずに済むのか?」が気になるところですが、海外で行われた多くの研究で、風邪のときに抗生剤を飲んでも、肺炎の発症する確率を減らせないことがはっきりしています。
また、肺炎は必ず細菌感染でなるものとは限りません。ウィルス性の肺炎の場合は、抗生剤が効かないため、抗生剤の内服は無駄に終わるだけでなく、常在細菌叢の乱れを招き、体に余計な負担を与えるだけになってしまいます。
4)抗菌薬(抗生物質)の弊害
(1)薬剤耐性(AMR:Anti Microbial Resistance)(いわゆる薬剤耐性菌の出現)

抗菌薬は病原体(細菌)を退治してくれる薬剤ではありますが、100%完璧に退治し切れるものではありません。
特に中途半端に使用したり、無計画に抗菌薬を使用したりすると、攻撃される側の細菌も、たまたま生き残ったりします。それがきっかけになって、その細菌がその抗菌薬に対抗する力(=耐性)を身につけていく可能性が高まります。そのため、耐性菌に対抗する新しい抗菌薬を開発しても、いずれはそれに対抗する耐性菌が出現する、という人間と細菌の間でイタチごっこになってしまいます。
小児科は「子どもを診る診療科」ですが、強いては「健康な子どもたちの将来に向けた健康面をサポートする診療科」でもあると思っています。
薬剤耐性菌を生み出さないようにしていく(無計画に抗菌薬(抗生物質)を処方しない)ことも、将来 のことを考えると大切なことだと思います。
(2)下痢
抗菌薬は目的とする細菌のみを攻撃するのではありません。
抗菌薬が得意とする体内の細菌を片っ端からやっつけようとしていきます。
その際、体内でたくさんの細菌がいる場所も影響を受けてしまいます。
いわゆる「腸内細菌」と言われる細菌たちです。
善玉菌・悪玉菌などの分類を耳にしたことがあるかと思います。
どうせなら、悪玉菌だけ退治してくれればいいのですが、抗菌薬にとっては善悪関係なく攻撃するため、腸内細菌のバランスが崩れてしまいます。
すると消化吸収の機能が影響を受けて、下痢になってしまいます。
そのため、抗菌薬の処方の際は、抗菌薬と併用できる整腸剤が処方されたりしますが、下痢にならない訳ではありません。

(3)Dyobiosisによる免疫系への影響(アレルギー疾患(気管支喘息、アトピー性 皮膚炎など)

(2)でも述べているように、抗生剤の使用により、腸内常在細菌叢のバランス変化が起こります。
それだけでなく、免疫系に影響を与えるようになると言われています。
細かい話は省略しますが、免疫担当細胞の一つであるT細胞の大元の細胞が成熟していく過程で、色々な腸内細菌が関わっています。つまり腸内細菌の構成によって、免疫担当細胞の種類や量が決定されているということです。
そのため 腸内細菌のバランスが悪化すれば、免疫担当細胞の産生が乱れることを意味し、その乱れが免疫系に影響を及ぼし、結果としてアレルギー体質を招く一因になるとも考えられています。
まとめ
このように抗菌薬(抗生物質)は、しっかり考えて使うと強い味方になってくれる存在ですが、安易な使用により体にとって害になるだけでなく、未来にも影響を与えることにもなります。
特に日本では、処方する側も、使用する側も、抗生物質を軽く考えているという統計結果もあります。
せめて使用する側だけでも、この情報で、抗生物質の使用を考えるきっかけになれば幸いです。
